「SEの子供は女の子が多い」SEのあなたなら一度は聞いたことのある都市伝説だ。
私もシステムエンジニアの仕事をしているわけだが,確かに女性比率が多い印象だ。
同じグループで仕事をしている子持ちの職員5人の内5人ともみんな女児である。
あくまで私の周りだけの話であり統計的根拠は全くないが,都市伝説では済まされない結果である。
ネットで検索しても多くの方が「SEの子供は女の子が多い」と訴えている。
なぜSEの子供は女の子が多いと騒がれているのであろうか。
噂の原因の一つとしては電磁波による影響である。常にPCを使っているSEや、放射線技師など,電磁波や放射線を常に浴びていると女の子が生まれやすいということらしい。
上記都市伝説がただの噂なのかそれとも,真実なのか。
- 電磁波は生まれる子供の男女比に影響を及ぼすのか
- 子供の性別はどう決まる??
- 電磁波とは
- 福島原発事故による出生児比率の考察
- 放射線による生まれる子供の男女比への影響
- チェルノブイリ原発事故による出生性比への影響
- まとめ
電磁波は生まれる子供の男女比に影響を及ぼすのか
電磁波により生まれる子供の男女比に性差が発生するのかを調べてみよう。
日本電磁界情報センターは以下のような見解を示している。
質 問
低周波電磁界を長くあびていると、生まれる子どもが女の子である割合が多いと聞いたことがありますが、本当ですか?回 答
動物実験においては、生殖への影響として電磁界による出生の性比率を調べたものはありますが、性差は有りませんでした。人ではほとんど調べられていません。
動物実験における出生率の性差はないとされており,人間での検証はされていないので分からないそうだ。
しかしながら,子供の男女比に関する研究は1970年代から盛んに研究されており,多くの研究が「電磁波被爆した親から生まれた子供には女の子が多い」という話を支持している。
(参考文献:5.電磁波が及ぼす環境問題 荻野 晃也)
上記文献では,電磁波被爆を受けやすい職業をしている親から生まれた子供の比率を表にまとめている。
残念ながら上記例では職業は「電力施設」や「物理治療師」となっており,システムエンジニアで調査はされていないが,上図の研究によると男親だろうが女親だろうが電磁波被爆を受けると女児の出生率が明らかに多くなっていると言えるだろう。
8本の論文の内8本とも女児の出生率が高くなっているということが示されている。
また,高周波の電磁波でも低周波の電磁波でも同様に女児の比率が高くなっている点も注目すべきポイントである。
特にイエメンでの電力施設で勤めている男親から生まれてくる子供の男女比がかなり顕著である。
出産男児:出産女児=8:54
出産男児に対して出産女児が実に約7倍の差が生まれていることがわかる。
偶然ではとても済まされない結果ではないだろうか。
子供の性別はどう決まる??
そもそも子供の性別はどう決まるのであろうか。
子どもの性別は,精子と卵子の持つ染色体の組み合わせで決まる。
染色体にはXとYがあり,男性はXYの組み合わせを女性はXXの組み合わせを持つ。
X染色体精子が受精すればXXで女の子
つまり,生まれる子の男女の鍵は男性の性染色体にあるというわけだ。
ちなみに,X精子はY精子に比べるとはるかに強く,酸性度の高い液に満たされている膣の中でも長い間卵子を目指して泳ぐことができる。また,寿命は2 ~3 日とY精子の24時間程度に対して圧倒的に寿命が長いという特徴を持つ。
一方,Y精子はX精子に比べて酸に弱く、寿命も短いということが言えるが,Y精子の運動率がX精子よりも優れていて,卵子までの到着速度が速い。また,X精子に比べて数も多い。
このような両者の特徴がバランスが取れていて,通常時は男女の出生率に大きな差がないのである。
電磁波とは
電磁波が性差に影響するとなるとそもそも電磁波が何者かについてもおさらいしておく必要がある。
電磁波とは電化製品やOA機器などから生じる電場と磁場が時間的・空間的に変化しながら生じる波のことである。コンピューターでは主にディスプレイから発生する。その中でも周波数が高く波長が長い物を「放射線」と呼ぶ。X線やガンマ線など種類があり、X線はレントゲン撮影にも使われている。
放射線と言われると不謹慎にもどうしても気になってしまいうのが,福島の原発事故である。
福島の原発事故により福島県民の出生児への影響はあったのだろうか。
福島原発事故による出生児比率の考察
「電磁波や放射線を常に浴びていると女の子が生まれやすい」という都市伝説が本物なら原発事故が発生した平成23年3月以降において女児の比率が多くなっていることが予想される。
どのような結果になったのであろうか。
福島県現住人口調査年報から平成19年~平成29年までの出生率にかかるデータを引っ張ってきて以下の通り表にまとめた。
原発事故が発生する平成23年以前の出生性比は概ね1.05程度である。
日本における出生性比(男児/女児)は約1.05である。
一方,原発事故が発生した以後である平成24年以降は1.04程度である。
つまり,大きな差はなく,特段原発事故における出生比への影響がないように見受けられる。
先ほどの電磁波が出生児に与える影響の文献とは異なる結果となってしまった。
一体どういうことであろうか。原因が気になってしまう。
放射線による生まれる子供の男女比への影響
よくよく調べてみると,放射能によって被曝した親から生まれてくる子どもの性別に影響が現れるということは過去の研究から分かっているようだ。
1948-1962年の調査によると電磁波と打って変わって放射線の場合は,母親が被曝すると女子の比率が上がり、父親が被曝すると男子の比率が上がると言われていた。
一方で,放射線影響研究所の見解によると上記調査結果に統計的優位性はなく,放射線による性比への影響に関する情報は遺伝的障害の指標として有益なものとは考えられないと主張している機関も存在する。
被爆者の子供における男女比(1948-1962年の調査) – 公益財団法人 放射線影響研究所 RERF
人が変われば,主張もまちまちでどうやら難しい世界に足を踏み入れてしまったようだ。
チェルノブイリ原発事故による出生性比への影響
もうひとつの大きな原発事故であるチェルノブイリ原発事故にかかる研究結果を見てみよう。
チェルノブイリの原発事故においては男児の比率が増えると主張してる論文が存在する。
The human sex odds at birth after the atmospheric atomic bomb tests, after Chernobyl, and in the vicinity of nuclear facilities
[H Scherb, K Voigt - Environmental Science and Pollution Research, 2011 - Springer]
上記論文によるとチェルノブイル原発事故による放射線の影響により男児の比率が増えることが主張されている。
左の図1を見ると原発事故前の1950年〜1990年にかけてアメリカとヨーロッパでの出生性比を表している。アメリカとヨーロッパともに似たような増減をしているということが見て取れる。
一方,右の図2に目を移していただこう。今度は1975年から2007年までの同じくアメリカとヨーロッパでの出生性比の図である。
チェルノブイリ原発事故が発生したのは縦線が入っている1986年だ。
図2によるとアメリカとヨーロッパの出生性比が1986年から多きく変化していることがわかる。1950年から今まで同じような出生性比であったのにも関わらずだ。
ヨーロッパではチェルノブイリ原発事故が発生した1986年以降明らかに出生性比が上昇してるのだ(男児の比率が上がっている)。
ヨーロッパ内の各国についてもう少しクローズアップしてみてみよう。
図3では上からロシア,ドイツ,フランスの順で出生性比が表されてる。
この図を見ると明らかのとおり,1986年以降チェルノブイリ原発事故が発生したロシアで出生性比の上昇がみて取れる(男児比率の上昇)。
一方,ドイツ,フランスでは出生性比の変化は見られない。図2のアメリカと同じような出生性比である。
この図から距離が近いほど(放射線被爆量が多いほど)出生性比への影響が大きいと言えるだろう。
まとめ
高周波の電磁波でも低周波の電磁波でも女児の出生率が上がるという主張がありつつ,高周波の電磁波である「放射線」では男児の出生率が上がるという主張もある。
はたまた上述の通り,「電磁波による影響は統計的優位性はない」と主張する機関も存在する。
残念ながら,片手間の調査では調べきれないという結果となってしまった。
電磁波が出生比率に影響すると仮定した場合でもよく分からないのだから,今回のテーマの「システムエンジニアの子供が」と言うテーマに絞るともっと分からない。
興味のそそるテーマではあるが,これ以上深入りすると迷宮入りしそうだ。
今日の時点ではいったんここまでとし,深入りはまたの機会としよう。
以上